ういさんが元気に生後8ヶ月をむかえました。
ういさんはあさって身体測定するので、今日は母ざるの話です。
私は妊娠してすぐからからだの変調に気づき、それからずっと、ずっとずっと、さっきまでずっと、1年半ほどの間、獣でした。
さっき人間に戻りました。
どういうことなのか、と問われてもうまく言えません。まだ戻ったばかりですから。
この記録の一番最初、ういさんが生まれる直前にも少し書いたとおり、母体とは人間ごときがコントロールできるような類のものではない、としか言えません。
父ざるの話では昨日あたりから私の様子が変化し顔つきが変わっていたそうです。
どのような変化、って、元の自分に戻ったかんじ、としか言いようがないです。
変調のはじまりは、ソワソワソワソワ、でした。独特のソワソワです。一見何事もないのにソワソワして吠え出す犬のようなまさしく動物的感覚、ここが獣生活の第一歩でした。
その後は当然つわりやら安定期やら臨月やら出産やらその他あれこれ紆余曲折があるわけです。
が、まずその第一歩から理性とか自制心とかもうそういう人間っぽいあらゆる事は自分の体の中からぽろぽろはがれ落ちてなくなっていきました。
そこにあるのは防衛本能と巣作り本能、肉体はとにかくトロリトロリと、とにかくただ生きる。
赤ちゃんの世話や自分たちが生きるために必要なこと以外に対するものは殆ど欠如し、集中力や記憶力などの色々は80%くらいダウン、複雑な事や雑多な事はどんなに一生懸命考えようと思っても脳が拒否するし、例えばさっき薬をのんだかどうか、この料理はどうやって味付けしてたのか、今自分がどういう気持でどうしたいのか、など本当に簡単な事もすぐに判らなくなりました。
何やら大きな細胞膜にくるまれて生きている上にずっと寝起き、みたいな感じです。
妊娠中、あるいは出産直後の動物が他の物を寄せ付けず、自分や赤ちゃんを他に触れさせない、そういう感じもありました。それを気が立っているとか表現しますが、それはちょっと違い、とにかく他と接触したくない感じです。
しかしそこはいくら獣っぽくなっても人間。病院にも行かなくちゃいけないし、家族や友人知人、店員さんやあらゆる人に囲まれながら社会生活をしなくてはいけません。
人間時代の概念も覚えているので、例えばこれはちっともイヤな事ではない、楽しい良いことなんだと頭では判っていることでも、もうどうにもコントロールできない嫌悪感、これを我慢するのがけっこうつらかったです。
それが何かって言われたら本能とこたえるしかありません。人間と暮らす動物は結構大変かもしれないと思いました。
その獣生活が、ついさっき、突然終わりました。たぶん終わりました。
何故かはわかりません。いつも通りの今日なのに、突然人間に戻りました。
あらためて、理屈とかじゃないのです。
そーいうもんです。
あ、オオカミ男。あれです。月をみると何故か判らないけど獣になってしまい、朝がくると自然に人間に戻る。あれみたいなもんです。
私とういさんはオオカミには関係ないので、長い長いつわりが終わったんだと思う事にします。
獣生活は色々不便もありますが、それはそれで、幸せなことなのかもしれないです。
とりあえず誰かに噛みついたりする前に人間に戻れて良かったです。